最高裁判所第三小法廷 昭和47年(オ)89号 判決 1972年4月25日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について。
原判決の確定したところによれば、本件約束手形のうちの一通については、第一裏書欄中、裏書人の名下の捺印部分に重ねて、同印の約三分の一の直径の、通常会計帳簿に使用される<済という文字を〇で囲んだもの>なる印が青色インクで押捺されているが、裏書人の記名は存置されていて、その上に線を引いてこれを抹消するなどの措置はとられておらず、通常抹消に使用されるような押印もされていないというのである。このような事実関係のもとにおいては、右裏書記載を除去する意思が手形上客観的に表現されているものとはいえず、右裏書は抹消されたものではないとした原判決の判断は、正当として是認することができる。論旨は、違憲をいうが、実質は右判断の違法を主張するにすぎないものと解されるところ、原判決になんら所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝)